ホームページを新しくして三か月。ページの隅に置いた「ご意見をお聞かせください」のボタンは、まだ一度も押されていません。
届く声があるとすれば、よほど困った人からの苦情か、もともと熱心な常連からの励ましくらい。そのあいだにいる「普通に使って、普通に何かを感じた人」の声は、どこにも残らない。
意見が来ないのは、お客様が無関心だからではありません。
声を出す理由を、こちらが用意していないからです。
アメリカのドミノ・ピザは、この問題にとても率直な答えを出しました。
REPORTED CONTEXT
何が起きたのか
ドミノ・ピザは、刷新したアプリとWebサイトを使った注文を促すキャンペーンを実施しました。米メディアMarketing Diveが報じています。
目的は、新しいデジタル注文の使い心地について、利用者から直接意見を集めることです。
2026年8月3日から30日に条件を満たすオンライン注文をした人には、翌週のデジタル注文で使える5ドル割引クーポンが提供されました。意見の提出は割引の条件ではありません。利用促進とフィードバック募集を組み合わせた施策です。参加人数や意見の偏りへの効果は、確認した記事には示されていません。
EDITORIAL PERSPECTIVE
どう読み解くか——利用のきっかけと意見募集を組み合わせる
新しい注文体験を実際に使うきっかけと、意見を伝える入口を併せて用意した点に注目できます。以下は期待できる可能性についての編集部の見方で、効果を実証したものではありません。
一つは、体験する人を広げることです。割引をきっかけに普段とは異なる利用者が注文する可能性がありますが、集まった声の偏りが減ったかは分かりません。
二つ目は、実際の注文の流れの中で体験してもらえることです。どのような意見がどれだけ集まったかは、今回確認した報道では分かりません。
三つ目は、割引と新しい体験を一緒に知らせることで、刷新を知ってもらうきっかけを作れることです。報道されたことだけでは、認知や売上への効果は判断できません。
割引は次回注文に使えるもので、意見への現金報酬ではありません。利用を促す施策と意見募集を分けて捉える必要があります。
EDITORIAL PERSPECTIVE
日本の中小企業が使うなら
日本では、お金を払って意見を聞くことに、どこか抵抗を感じる方もいるはずです。消費者向けなら「モニター募集」として定着していますが、法人取引では「お客様にお手間をおかけするなんて」という感覚が先に立ちます。完成前のものを外に出すこと自体が、社内でリスクとして扱われることもあるでしょう。
ただ、それはやめる理由ではなく、形を変える理由です。
日本で現実的なのは、「謝礼つきの先行体験」という形です。ここで大事なのは、謝礼と先行を必ずセットで伝えること。謝礼だけでは作業の依頼に聞こえ、先行体験だけでは一方的なお願いに聞こえます。両方がそろうと、「あなたの意見で、このサービスが仕上がる」という参加の感覚が生まれます。
すぐ試せる形を三つ挙げます。
一つ目は、既存のお客様の中から数社を選び、新しいサイトやシステムを先に使ってもらうこと。短いオンラインの聞き取りとセットにして、お礼をお渡しします。
二つ目は、意見の集め方を軽くすること。細かいアンケートより、「使いながら気になったことをメモしてください」とだけ伝えるほうが、自然な使い方が保たれます。画面を録画できるツールを使えば、言葉にならないつまずきも見えてきます。
三つ目は、検証の過程そのものを発信すること。どんな課題が見つかり、どう直したのか。それを記事や資料にまとめれば、取り組みの副産物がそのまま営業の材料になります。「実際の利用者の声を受けて作り直しました」という一文は、カタログのどんな宣伝文句よりも重く響きます。

EDITORIAL PERSPECTIVE
法人向けのサービスほど、この手法は効く
法人向けのサービスには、「使う人」と「決める人」が別だという特徴があります。
現場の担当者が使いにくいと感じていても、その声は決裁者まで届かないまま契約が続く。反対に、現場が「これは便利だ」と感じていても、その評価は社内で埋もれていきます。
謝礼つきの先行体験は、この分断をつなぐ手段になります。実際に使っている現場の人と、直接話せる窓口が開くからです。そこで得た声は、次の提案の根拠にもなります。

EDITORIAL PERSPECTIVE
デザインの視点から——「未完成」を、招待状に変える
具体的な画面のデザインは確認できていないため、ここでは体験の設計の話にとどめます。
刷新した体験を使ってもらい、意見も募る。体験への入口と声を届ける入口を分かりやすく用意することが、利用者との対話を始める一歩になります。
設計で問われるのは、いつ、どこで声をかけるかです。注文が終わった後に聞くのか、使っている最中に聞くのか。お礼を先に渡すのか、後に渡すのか。その一つひとつが、集まる意見の量と質を左右すると考えられます。
ページの隅のボタンが押されないのは、押す理由も、押した先に何があるかも見えないからです。これは利用者の問題ではなく、設計の問題です。
EDITORIAL PERSPECTIVE
AIで量産する前に、確かめてほしいこと
いまは、AIに架空の利用者を演じさせて、サイトの使い勝手を批評させることもできます。アンケートの設問づくりも、集まった声の整理も、AIなら数分です。私たちアイムホッピングも日常的に使っており、作業の効率は確かに上がります。
それでも、AIの声は、あなたのお客様の声ではありません。
AIが返すのは、もっともらしい平均的な感想です。あなたの会社のお客様が、どの画面で手を止め、何に戸惑い、何を期待してあなたを選んだのか。それは実際に話を聞かなければ分かりません。
その前に、もう一つ決めておくことがあります。新しいサイトやサービスで、自社はお客様に何を約束するのか。約束が言葉になっていなければ、集まった意見のどれを採り、どれを見送るかを決められません。この約束は、社内とお客様との対話の中で固めるものです。AIで完結させないでください。約束が決まっていれば、AIは集まった声を整理する頼もしい道具になります。
EDITORIAL PERSPECTIVE
まず一つ、試してほしいこと
付き合いの長いお客様を一社選び、自社のWebサイトで「いつもの用事」を済ませてもらうところを、横で十分間だけ見せてもらってください。
口は挟まず、相手の手が止まった場所と、首をかしげた瞬間だけをメモします。終わったら、ひと言お礼を添えて。そのメモの一行目が、次に直すべき場所です。
Source & editorial notes
参考記事:Marketing Dive ↗報道された事例をもとに、アイムホッピングが編集・解釈しています。日本向けの活用例は編集部の提案で、施策の効果を実証するものではありません。
図解・挿絵は記事の考え方や架空の場面を表現したもので、各社の公式広告素材ではありません。
