長年の取引先からは「変わらないね」と信頼される。けれど新しいお客様からは「古そうな会社」と見られてしまう。そんなもどかしさを感じたことはないでしょうか。
ロゴを新しくすれば若い世代に届くかもしれない。でも、昔からのお客様に「あの会社は変わってしまった」と思われるのは怖い。
伝統を守るか、新しさを取るか。どちらかを選ばなければいけないように思えます。
アメリカの老舗ボウリング場チェーンAMFは、この問いに「どちらも捨てない」という答えを出しました。
REPORTED CONTEXT
何が起きたのか
AMFは、アメリカ全土にボウリング場を展開する老舗チェーンです。1950〜60年代のボウリングブームを牽引した企業で、その名前自体が、ある時代の記憶と結びついています。
米国の広告専門メディアAdweekによれば、AMFはリブランディングに踏み切りました。ロゴとタグラインを刷新し、館内の歴史展示やサインなども段階的に更新する計画です。
方向性として選ばれたのは「ノスタルジア」、つまり懐かしさでした。クラシックな意匠を現代的に読み替えながら、リーグ戦に通う昔からの常連客と、新たに取り込みたいZ世代の両方を同時に満足させようとしています。
2026年7月の企業発表では、盾形ロゴの文字と赤色を更新し、「A Classic Since Always」を掲げています。成果を示す数値は、今回確認した発表には記載されていません。ここでは、看板だけでなく場所の体験ごと見直そうとしている、その仕組みに絞って読み解きます。
EDITORIAL PERSPECTIVE
なぜ効くのか——同じ絵が、二つの意味で届く
このリブランディングの核心は、「懐かしさ」を「かっこよさ」に変えるところにあります。
懐かしさは本来、その時代を知っている人にしか届かない感情です。けれど若い世代にとって、自分が経験していない昔の意匠は「レトロでかっこいいもの」として映ります。レコードやフィルムカメラが若い人に好まれるのと同じ構造です。
AMFに有利なのは、自社がその時代の本物だということです。後からつくったレトロ風ではなく、本当にその時代から続いている。この事実が、デザインに説得力を与えます。
一方で、昔からの常連客にとっては「自分たちが愛してきたものが否定されなかった」という安心につながります。リブランディングで既存のお客様が離れてしまうのは、「新しくなる」が「古いものを捨てる」と受け取られるからです。AMFはその逆を狙いました。
古さを捨てるのではなく、磨き直す。
二つのまったく異なるお客様に、同じデザインが違う意味で届く。これがこの事例の本質だと考えられます。

EDITORIAL PERSPECTIVE
日本の中小企業が使うなら
日本にも、古い信頼を持つ会社はたくさんあります。創業から何十年も続く機械メーカーや、地域の業務用卸。そのロゴや社名は、長年の取引先には安心の印です。ただ、新規開拓の場面では「古くさい」と受け取られることもあります。
そのまま真似するのはおすすめしません。日本の法人取引では、「変わらないこと」が信頼の証になりやすいからです。ロゴを大きく変えた途端に「何かあったのか」と勘ぐられる。変化への受け止め方は、国だけでなく業界や取引関係によって異なるため、既存のお客様への説明が大切になります。
ただ、「古さを磨き直す」という発想は、少しずつ取り入れられます。すぐ試せる形を三つ挙げます。
一つ目は、歴史の見せ方を変えること。創業年をホームページの片隅に小さく載せるのをやめ、ロゴの近くに堂々と置く。当時の機械や現場の写真を「アーカイブ」として会社案内に載せる。費用はほとんどかかりません。
二つ目は、キャッチコピーを現在形にすること。「創業50年の実績」という過去形の言い方を、「50年、現場にいた」「変わらない理由がある」と言い換える。ロゴはそのままでも、昔からのお客様への敬意と、新しいお客様への説明が同時に成り立ちます。
三つ目は、名刺や封筒の質感を上げること。中小企業がお客様と最もよく接する「もの」は、名刺と書類です。手触りのある紙、余白を生かした落ち着いたレターヘッド。それだけで、老舗らしさが誠実さとして伝わる可能性があります。
EDITORIAL PERSPECTIVE
地味な商材ほど、歴史は効く
設備のリース、産業機械、業務用のサービス。差がつきにくい商材ほど、価格と実績の比較になりがちです。
本来、実績は強い武器のはずです。問題は、それが「古さ」と混同されて伝わっていることにあります。
たとえば「30年間、お客様の工場の設備を止めなかった」という会社があるとします。これを「古い会社」ではなく「30年間、止まらなかった会社」として言葉とビジュアルで語り直す。それだけで、お客様の受け取り方は変わるはずです。

EDITORIAL PERSPECTIVE
デザインの視点から——共通の方針で段階的に変える
AMFの事例で注目したいのは、ロゴとタグラインから館内の表現へ、共通の方針で段階的に展開する点です。
段階的な刷新でも、何を残し、どう変えるのかという方針はそろえたいところです。ロゴと名刺を変える時期が異なっていても、移行の順番と伝え方を決めておけば、お客様が迷いにくくなります。
もう一つ大事なのが、過去のどの特徴を残すかという選択です。懐かしいと見るか、新鮮と見るかは、受け手の経験によって変わります。Adweekは、AMFの方向性をミッドセンチュリー・モダンを思わせるレトロなものと伝えています。過去をそのまま複製せず、今に残す特徴を選ぶことが、デザイン戦略の要点だと考えられます。
EDITORIAL PERSPECTIVE
AIで量産する前に、確かめてほしいこと
いまはロゴの案も、レトロ調のデザインも、キャッチコピーも、AIを使えば一瞬で何十通りもつくれます。私たちアイムホッピングも、日々の制作でAIを使っています。
それでも、ここだけはAIで完結させないでください。
自社の歴史の中で、何を残し、何を変えるのか。昔からのお客様は、私たちの何を信頼してくれているのか。この判断です。AIがつくる「レトロ風」は、どこかで見た懐かしさの平均です。あなたの会社が積み重ねてきた本物の時間は、AIの中にはありません。
社内の古参社員や長年の取引先と話しながら、自社の何が誇りなのかを言葉にする。その核があれば、AIは磨き直しを助ける心強い道具になります。
EDITORIAL PERSPECTIVE
まず一つ、試してほしいこと
社内に眠っている一番古い写真か資料を、一つ探し出してみてください。
創業当時の現場、最初の製品、手書きの帳票。それを見て「これは隠したい」と思うか、「これは見せたい」と思うか。後者なら、それがあなたの会社の磨くべき古さです。
Source & editorial notes
参考記事:Adweek ↗公式発表 ↗報道された事例をもとに、アイムホッピングが編集・解釈しています。日本向けの活用例は編集部の提案で、施策の効果を実証するものではありません。
図解・挿絵は記事の考え方や架空の場面を表現したもので、各社の公式広告素材ではありません。
