「戦略的デザイン会社」を探す前に、一度立ち止まってほしい
検索窓に「戦略的 デザイン会社」と打ち込むとき、経営者の頭の中には、たいてい小さな後悔が一つあったりする。
「前に頼んだロゴ、見た目はきれいだった。でも、結局なにも変わらなかったんだよなー」。
「リニューアルしたサイトを見て、社員から『うちって、結局なんの会社なんだっけ?』って言われちゃった」。
そういう経験をくぐった経営者ほど、次の依頼先には「戦略的」という言葉を求めます。同じ失敗を繰り返したくないから。今度こそ事業を前に進める一手にしたいから。
この気持ちは、すごくよく分かる。
ただ、僕がこれまで現場で見てきた限り、デザインの失敗の多くは「依頼先が戦略的じゃなかったから」じゃないんですよね。もう一段、手前に原因がある。発注する側の「言葉」が、まだ整っていない。これがほとんど。
戦略的デザイン会社を探す前に、一度だけ立ち止まってほしい。この記事は、その問い直しの時間として書きました。
なぜ多くの経営者が「戦略的なはずの」デザイン発注で失敗するのか
ヒアリングはしっかりしていた。提案資料も分厚かった。担当者も誠実だった。それなのに納品物を眺めて、なんとも言えない違和感が残る。こういうケース、本当によくあります。
失敗の構造は、わりとシンプル。
発注する側が「うちは何の会社か」「誰のどんな課題を解いているのか」を言葉にできていないと、デザイン会社はその空白を自分たちの解釈で埋めるしかない。
すると、こんなやりとりが起きちゃう。
「もう少し、信頼感が出る色味でお願いします」
「あ、それと、温かみも欲しいですね」
「あと、革新性も感じられたら」。
依頼者は、自分の中の感覚をなんとか言葉にしようとしている。デザイナーも誠実に応えようとしている。それでも、形容詞だけを重ねた指示は、輪郭のない雲を彫刻するような作業になっちゃうんですよね。
出てくるのは、どこかで見たような無難なデザイン。「悪くはないけど、これじゃない」という、いちばん判断に困るアウトプット。これは依頼先のスキル不足じゃない。上流の言葉が整っていない構造の問題です。
「戦略的デザイン」は、本来どこから始まるべきか
「戦略的デザイン」と聞くと、多くの方は「データ分析に基づいた」「市場調査を踏まえた」みたいな工程を思い浮かべるかもしれません。もちろん、それも大事な要素。
ただ、僕の感覚だと、デザインが戦略的かどうかはもっと手前で決まっています。「誰に、何を、なぜ届けるのか」が言葉として明確になっているか。これに尽きる。
たとえば同じ「カフェのロゴ」でも、こうなる。
同じ「カフェのロゴ」でも、言葉が変わると
- 「20代女性向けの、おしゃれな雰囲気のカフェ」というブリーフからは、無数の正解が生まれてしまう。
- 「子育てを終えた50代の女性が、自分のための時間を取り戻す場所。早朝5時から、静かに本が読める」というブリーフからは、自然と色も、書体も、空気感も絞り込まれていく。
戦略的デザインの出発点は、市場分析じゃなくて「言葉の解像度」。解像度の高い言葉があるところには、解像度の高いデザインが生まれる。逆もそう。曖昧な言葉からは、曖昧なデザインしか生まれない。シンプルな話。
デザインの上流には「言語設計」という工程がある
ここで一つ、概念を整理させてください。「言語設計」という言葉。
言語設計とは、会社の存在意義・提供価値・約束を、誰が読んでも同じ意味に受け取れる言葉に落とし込む作業のこと。コピーライティングと似ているんだけど、用途がちょっと違います。コピーは「外に向けて魅力的に伝える表現」。言語設計は「内側で意思決定の基準になる原文」。
たとえばこんな違い。
コピーと言語設計の違い
コピー:「あなたの毎日に、ひと匙の余白を」
言語設計:「I'm Hoppingは、忙しいビジネスパーソンが帰宅後の30分で気持ちを切り替えるための、ハーブティーブランドである」(※サンプル)
上が下から派生する。下があるからこそ、上のコピーも、パッケージも、店頭ディスプレイも、SNS投稿も、全部同じ方向を向きます。
僕が見てきた中で、いいデザインを出し続ける会社は、下の文章を必ず先に固めるんですよね。固まらないままビジュアルに進むのを「危険」と判断する。後から言葉がブレた瞬間、それまで積み上げたビジュアルすべてが矛盾しちゃうから。これが基本。
戦略的デザイン会社の見極めポイント──5つの質問
依頼先を選ぶ段階で、こっちから投げかけてみてほしい質問が5つあります。回答の中身そのものより、回答の手触りで分かることが多いんですよね。
依頼前に投げかけたい5つの質問
- 「最初に何を聞いてくれますか?」 — デザインのテイストから入るか、事業の背景や経営者の想いから入るか。答え方の中に、上流から考える習慣があるかどうかが見えるはず。
- 「言語化の工程は、どのくらい時間をかけますか?」 — ロゴ制作の前に、コンセプトや一文の定義にどれだけの時間を割くか。その答えの中に、言葉をどう扱っているかが現れます。
- 「過去の事例で、言葉が変わった瞬間を教えてもらえますか?」 — ビジュアルじゃなく、言葉のビフォーアフターを語れるかどうか。ここで返ってくるエピソードの粒度に注目してみてほしい。
- 「うちの『一言で言うと』を、提案前に決めますか?」 — 提案資料の冒頭に、一文の定義を置く習慣があるかどうか。これは制作プロセスの設計思想を映します。
- 「納品後、その言葉はどう運用していくと良いですか?」 — 言語設計を「成果物」として閉じるか、「経営の道具」として開くか。納品後の景色を語れるかが、ここに出る。
5つすべてに納得のいく答えが返ってくるなら、その会社は単なる制作会社じゃなく、言語の上流から並走できる相手と言えそうです。
「制作スキル」と「言語化スキル」は別物
ここで、誤解されやすい点に触れておきたい。デザインが上手な会社が、必ずしも言語化も上手とは限らないんですよね。むしろ、これは別の筋肉。
制作スキルは、与えられたインプットを最大限に翻訳する力。色、形、配置、書体、それらを掛け合わせて、意図を視覚化する力。
言語化スキルは、まだ言葉になっていない感覚や信念を、対話の中から掘り起こして、誰が読んでも同じ意味になる一文に凝縮する力。
両方を同じ人が高いレベルで持っていることは、僕が見てきた範囲だとそう多くない。だからこそ、依頼先を選ぶときには「どっちに強い会社か」を見極める必要がある。
ビジュアルポートフォリオばかりが並ぶ会社は、たぶん制作スキルが武器。逆に、過去の案件で「経営者がどんな言葉に行き着いたか」を語れる会社は、言語化スキルが武器。
両方を兼ね備えた会社は、本当に少ないなーと感じます。それでも、両輪を持とうとしている会社こそが、本来の意味で「戦略的デザイン会社」と呼べる相手に近づいているんだと思います。
ブランドの一貫性を支えているのは、デザインじゃなくて言葉
「ブランドの一貫性」という言葉、最近よく聞きますよね。ロゴ、Webサイト、名刺、SNS、店舗、すべてのタッチポイントで同じ印象を届ける。これがブランディングの基本だと。
その通りなんですが、一つだけ補足させてほしい。一貫性を支えているのは、見た目じゃない。見た目の奥にある「言葉」のほうです。
たとえば製缶業のSOBAJIMA can COMPANY様のお仕事では、ロゴをつくる前に「この会社は何のために缶をつくるのか」を経営者の方と何度も対話して、一つの理念に落とし込みました。その言葉があるからこそ、ロゴも、バリューブックも、すべてが同じ方向を向いていく。実例はWorksのページに掲載しています。
逆に言うと、言葉が曖昧なまま「とりあえずトーン&マナーを揃える」と、表面上は統一されているように見えても、判断の現場で必ず迷いが出ます。「この新サービスのバナー、ブランドカラーは合っているんだけど、なんとなく違和感がある」。その違和感の正体は、いつも言葉のほうにある。
ブランドの一貫性は、見た目で達成するものじゃなく、言葉で達成するもの。デザインはその言葉を視覚化する手段にすぎないんですよね。
失敗事例:言葉が曖昧なまま走り出したプロジェクトの末路
ここで、僕がよく見聞きしてきた失敗のパターンを共有させてください。I'm Hoppingでも他社のリカバリー案件として相談を受けることがあって、その中でも特に多い構造を一つ。
ある会社が、新しいデザイン会社にロゴとWebサイトのリニューアルを依頼しました。担当者は丁寧で、提案も洗練されていた。完成したサイトは確かに今っぽくて、写真もきれいに仕上がっています。
ところが、リリース後に営業現場でこんな声が上がった。「お客様に新しいサイトを見せても、なんの会社か伝わりにくくなった気がする」。
社内では、こんなやりとりも。「結局、うちって何屋さんなんだろうね」。
サイト制作の打ち合わせでは、デザイントーンや配色、写真の方向性は何度も議論された。それなのに「うちは何の会社か」を一文で決める時間は、ついに取られなかった。結果、ビジュアルは更新されたのに、伝えるべき言葉が前のまま。だから現場で機能しないんですよね。
この構造に陥ると、リカバリーには新規制作と同じくらいの時間とコストがかかります。一度ビジュアルを刷新した後で「やっぱり言葉から考え直しましょう」と立て直すのは、心理的にも予算的にもとても重い決断になっちゃうから。(経営者の気持ちを想像すると、ここはほんとに辛い🙃)
だからこそ、最初の発注の前に「言葉は整っているか」を点検してほしい。マジで。
I'm Hoppingが「言語設計パートナー」と名乗っている理由
ここまで読んでくださった方には、I'm Hoppingがなぜ「デザイン会社」じゃなく「言語設計パートナー」と名乗っているか、ちょっと伝わっているかもしれません。
I'm Hoppingでもロゴをつくります。Webサイトもつくります。パンフレットもCREDOブックもつくります。ただ、いつも最初に時間をかけるのは「言葉」。経営者の方と何時間も対話を重ねて、まだ言葉になっていない想いを掘り起こして、一文の定義に落とし込む。そこを通過してからしか、ビジュアル制作には進みません。
たとえばSK book様のCREDOブックの案件では、デザインに入る前に「この会社で働く人にとって、何が大切にされているのか」を言葉として整える工程に、いちばん時間を使いました。抽象的な経営理念を行動レベルまで言語化したうえで視覚化することで、ブックは社内外への浸透の道具として機能するものになりました。
「言語設計パートナー」という名乗りは、看板の差別化のためじゃない。デザインの上流に必ずある工程を、自分たち自身が責任を持って引き受けるっていう、覚悟の表明です。
ビジュアルだけを依頼したい方には、もっと制作スピードの早い会社が世の中にたくさんある。そっちのほうが向いている場面もあると思う。一方で、上流から並走してほしい方には、I'm Hoppingのような会社が役に立てます。役割の棲み分け、というだけの話。
デザイン会社を選ぶ前に、自社の言葉を点検する
最後に、もう一度だけ立ち止まる時間をお願いします。
依頼先を比較検討する前に、自社の「言葉」を点検してみてほしい。次の三つの問いに、30秒ずつで答えられるか。
自社の言葉を点検する3つの問い
- 「うちは、誰の、どんな課題を、どうやって解いている会社か」を、一文で言えるか。
- 「他社じゃなくて、うちが選ばれる理由」を、形容詞じゃなく具体的な動詞で言えるか。
- 「これから5年後、どんな会社になっていたいか」を、社員にそのまま伝わる言葉で言えるか。
詰まる場所があれば、そこが上流の未整備な部分。その未整備な部分を抱えたまま発注をかけると、どんなに優秀なデザイン会社に依頼しても、同じ違和感を繰り返すことになっちゃう。
逆に、この三つに自分の言葉で答えられるなら、依頼先選びはぐっとシンプルになります。「うちはこういう会社だから、こういう表現が欲しい」と語れる経営者には、デザイン会社の側も全力で応えやすい。これが基本。
「戦略的デザイン会社を探す」という問いは、本当はこう言い換えられるのかもしれない。
「自社の言葉を、誰と一緒に整えていくか」。
その問いに変えた瞬間から、依頼先の選び方は変わっていきそうです。
次回予告
この記事は、「言語設計から始めるブランディング」シリーズの第1回です。
次回(第2回)は「商品ブランディングが伸び悩む3つの理由──デザインの前にある「言葉の設計」」を、第3回は「デザインの役割とは何か──「見た目を整える」を超えて、経営の意思決定ツールへ」をお届けします。