「デザインの役割」を、経営の言葉で言い換えると
「デザインの役割って、結局なんなんだろう」。そんな素朴な検索で、この記事にたどり着いた経営者の方も、けっこういらっしゃるんじゃないかと思います。
ロゴ、名刺、Webサイト、パンフレット。形になっているものは色々あるけど、それが事業のどこにどう効いているのかは、いまいち言葉にしづらい。「綺麗にしてもらった」「整えてもらった」までは分かる。その先が、もやっとしちゃう。
経営の言葉に翻訳すると、デザインの役割はこう言えそうです。「曖昧なものを、判断できる形に変える装置」。
会社の中には、いつも形になっていない想いや方針が漂っている。経営者の頭にしかない事業観、社員それぞれの解釈、お客様が抱いているなんとなくの印象。これを誰が見ても同じ意味になる形に翻訳して、社内の意思決定と社外の選ばれ方を、両方とも整えていく。それが本来の役割なんですよね。
「見た目を整える」は、その役割が結果として表に出ているだけの話。出発点はもっと手前にある。
デザインは芸術じゃない、ということから話したい
ここを最初に整理させてください。経営者の方と話していると、デザインを「芸術寄りのもの」として捉えている方が、まだ結構いらっしゃるなー、と感じます。
「センスがある人が、感性で作るもの」「正解がない、好みの世界」。そう聞いた瞬間に、経営の議題から少し遠いものに見えてくるんですよね。投資判断の対象にしづらい。だから「分かる人に任せる」になっちゃう。
僕の感覚だと、デザインは経営の道具です。芸術とはそもそも別の領域にある。
芸術は、つくり手の内側にある衝動や問いを、自由に外に出していくもの。デザインは、使い手の課題を、目的をもって解決していくもの。出発点も、評価軸も、そもそも違うんですよね。
評価軸の話で言うと、芸術には「美しいかどうか」しかない。デザインには「事業の目的を達成するかどうか」がある。デザインの良し悪しは、最終的に経営の指標で測れちゃう。これが基本。
だから経営者の方は、デザインを芸術の領域から自分のテーブルに引っ張ってきていい。むしろ、引っ張ってこないと活かしきれないと思います。
役割①:曖昧なものを、判断できる形に翻訳する
役割を3つに分けて整理させてください。一つ目は、翻訳の役割。
経営者の頭の中には、まだ言葉になりきっていない想いや、なんとなくの方向性が、いつもいくつも転がっています。「うちの会社って、たぶんこういう価値を出してる」「次の展開、こっちの方が筋がいい気がする」。直感としては固まっているけど、口に出そうとすると微妙に滑る、あの感じ。
I'm Hoppingがこれまで関わらせていただいた中で印象に残っているのが、岐阜県中津川市の「鳥のさえずりと星空のキャンプ場」様の案件です。施設名そのものが、すでに感覚的で詩的だった。普通ならロゴを図解的に作ってしまいそうな名前を、あえてそうせず、「夜更けの森に佇む一羽の小鳥」と「降り注ぐ星空」を手描き風のトーンに落とし込みました。
このロゴが何をしているかと言うと、経営者の頭にあった「この場所の空気」を、誰が見ても受け取れる形に翻訳しているんですよね。スタッフが施設の案内を作るとき、SNSの投稿を考えるとき、新しい備品を選ぶとき。判断の基準が、ロゴと、その背後にある一言の定義の両方になる。曖昧だった「空気」が、判断できる形になる。これが翻訳の役割です。
役割②:社内の意思決定を、ブレない基準に乗せる
二つ目は、社内の判断軸を支える役割。
会社が動いていく中で、毎日のように小さな決定が走ります。新しいチラシのデザイン、商品ページの写真、求人広告の文言、店頭の什器の色味。一つ一つは些細だけど、積み重なるとブランドの印象になっちゃう。
ここで、判断の基準が経営者の頭の中にしかないと、現場は毎回確認に走ることになる。「これ、いいですか?」「あれは、ダメですか?」。判断が経営者のキャパに張り付いて、会社のスピードが落ちていく。
デザインの言語化済みのガイドや、定義済みのロゴ・色・書体は、ここで効きます。「うちの色はこれ」「うちの書体はこれ」「うちが大事にしている一言はこれ」。これを共有された現場は、いちいち聞かなくても、ある程度の判断を自分で出せるようになる。
経営者の役割が「個別の判断者」から「基準の設計者」に移っていく。これが、デザインを意思決定の道具として使うということなんですよね。
I'm HoppingでもCREDOブックやブランドガイドをつくるときには、必ず「現場で迷ったときに、誰が開いても同じ答えに辿り着けるか」を基準にしています。
役割③:社外の選ばれる確率を、最小コストで上げる
三つ目は、選ばれる確率を上げる役割。社外向けの効き目の話。
お客様は、ほとんどの場合、こっちが思っているより短い時間で会社を判断しています。Webサイトを開いて3秒、名刺を受け取って2秒、店頭の看板を見て1秒。その短い時間の中で「この会社、自分に関係ありそうか」「信頼してよさそうか」を瞬間的に決めちゃう。
ここでデザインがやっているのは、「数秒の判断に必要な情報を、過不足なく届ける」という地味な仕事です。事業の中身、想い、温度感、対象顧客との相性。これを言葉だけで伝えようとすると、お客様に何分も付き合ってもらわなきゃいけない。視覚と言葉を組み合わせると、これが数秒で済む。
たとえばI'm Hoppingが関わらせていただいた「チャレンジキッズ運動教室」様の案件では、代表の方が最初におっしゃった「子どもが本気で挑戦できる場所をつくりたい」という一言を起点に、5色の星のロゴと「ねっ、できた!」というコンセプトメッセージに落とし込みました。
結果として、開講前の体験会の申し込み数が、当初の予想を大きく上回ったとお声をいただいています。これは、デザインが「数秒で関心を引き、3分で意図を伝える」という社外向けの役割をきちんと果たした、という話だと思っています。広告費を増やすより、最小コストで選ばれる確率を上げにいく方法です。
なぜ「見た目を整える」という理解は誤解なのか
役割を3つ並べてみると、「見た目を整える」がいかに表面的な理解か、ちょっと見えてくると思います。
見た目は、結果として整っているだけ。本当に動いているのは、その奥の「言葉」と「判断基準」のほう。デザインは、それを目に見える形に翻訳しているにすぎないんですよね。
ここを誤解したまま発注すると、たぶんこうなる。「もっと今っぽくしてほしい」「もっと洗練させてほしい」「もっと信頼感を出してほしい」。形容詞だけが並んで、依頼の中身が空洞になっちゃう。これだと、どんなに腕のいいデザイナーに頼んでも、最後まで「これじゃない」が拭えない。
僕がこれまで見てきた中で、デザインを経営の道具として活かせている会社は、発注の入口で「うちが届けたいのは、こういう人の、こういう瞬間で、こういう判断を生むこと」と語れているんですよね。形容詞じゃなく、状況と判断で語る。ここが整っていれば、デザインは確実に効きます。
「見た目を整える」は、本気で取り組む経営者にとっては、たぶん入口の言葉として弱すぎる。シンプルな話。
デザインを経営の道具として使っている会社の共通点
I'm Hoppingで関わらせていただいた経営者の方や、外から見てきた会社を思い返すと、デザインを道具として使えている会社には、いくつか共通点があるなー、と感じます。
デザインを経営の道具として使っている会社の共通点
- デザインの議題を経営会議の上の方に置いていること。「外注先に丸投げ」じゃなくて、経営者自身が言葉と方針を持って関わっている。デザイナーへの説明を、現場に振り切らない。
- 納品物を「成果物」じゃなくて「運用するもの」として捉えていること。ロゴができたら終わりじゃなく、ロゴを「どう使うか」のルールをセットで考える。ガイドラインを「飾り」じゃなく「現場で開かれる本」として位置づけている。
- デザイナーや制作会社を「業者」じゃなくて「並走する相方」として扱っていること。発注と納品の関係を、対話と運用の関係にしていく。
この三つが揃っている会社は、たぶんデザインへの投資を毎回ちゃんとリターンに変えている。逆に言うと、揃っていないと、何回発注しても同じ違和感を繰り返すことになっちゃうんですよね(経営者の気持ちを想像すると、ここはほんとに辛い🙃)。
デザイン投資のROIは、どこで測れば良いのか
「デザインって、効果が測りにくいんですよね」。これ、本当によく聞きます。
たしかに、デザイン単体の効果を切り分けて測るのは難しい。広告のクリック率や売上のような直接の数字に紐づけにくい場面も多いんですよね。
ただ、僕の感覚だと、デザインのROIは見るべき場所がちょっと違う。短期の数字よりも、こっちの方が見えやすい。
デザイン投資のROIが見えやすい3つの観察点
- 社内の意思決定スピード。デザインと言語が整った後で、現場の判断のスピードと、経営者への問い合わせの頻度が、どう変わったか。減っていたら、それは判断基準が機能している証拠です。
- 顧客側の「初動」の質。問い合わせのトーン、商談に入ってからの会話の入りやすさ、検討期間の長さ。これは「うちが届けたかった意味が、ちゃんと先方に届いているか」を反映します。
- 社員の自社への語り方。「うちは、こういう会社で」と社員が口に出すときの、言葉の解像度と一貫性。デザインと言葉の設計が浸透していると、ここが揃ってくる。
短期の売上だけを追いかけると、デザインのROIは見えにくい。ただ、上の3つを半年〜1年で観察すると、効いているかどうかは確実に分かります。これが基本。
I'm Hoppingが考える「デザインの上流」
ここまで読んでくださって、たぶん気づいていただけたと思うんですが、I'm Hoppingがデザインを設計するときに、いちばん時間をかけているのは「言葉」のほうです。
ロゴをつくる前に、CREDOブックをつくる前に、Webサイトをつくる前に、まず経営者の方と長い対話を重ねて、まだ言葉になっていない想いを掘り起こす。一文の定義に落とし込む。そこを通過してから、視覚に展開する。
これは段取りの問題じゃなくて、デザインの役割の定義に直結する話なんですよね。デザインの役割を「曖昧なものを、判断できる形に翻訳する」と置いた瞬間、上流にあるべき工程は自動的に「言葉の設計」になる。ここを飛ばすと、翻訳すべき原文がないまま視覚化に進むことになっちゃう。
「言語設計パートナー」という名乗りは、その上流工程を、自分たちが責任を持って引き受けますという意思表示です。デザインを芸術として扱うんじゃなく、経営の意思決定ツールとして扱うために、必要な順序を崩さない。
ここはI'm Hoppingが、自分たち自身に毎回言い聞かせている部分でもあります。
経営者がデザインに対して持つべき、たった一つの問い
最後に、デザインの議題を経営のテーブルに乗せるとき、経営者の方に持っていてほしい問いを一つだけ置かせてください。
「うちのデザインは、誰の、どんな判断を、どっちに動かしたいのか」。
この問いに自分の言葉で答えられるなら、デザインは確実に経営の道具になります。逆に、ここが「もっと今っぽく」「もっと信頼感を」みたいな形容詞で止まっているなら、まだ上流の言葉が整っていないサインです。
その整っていない部分を埋めるためにこそ、I'm Hoppingみたいな相手がいる。デザインの工程に入る前に、経営者の方と一緒に「誰の、どんな判断を、どっちに動かすか」を言語化する。ここを揃えてから視覚に進めば、後の制作工程は本当にスムーズになるんですよね。
経営者の方が、デザインを「経営の意思決定を加速するための、言葉と視覚の翻訳装置」と捉えてくれた瞬間から、デザインへの投資の精度はぐっと上がっていきそうです。「これは経営の道具だ」と腹落ちした人のテーブルの上では、デザインは確実に仕事をしはじめると思っています。
シリーズを読んでくださった方へ
この記事は、「言語設計から始めるブランディング」シリーズの第3回(最終回)です。
3本を通してお伝えしたかったのは、結局これに尽きます。デザインの上流には、いつも「言葉」がある。その言葉が整っているかどうかで、戦略的デザインの効き目も、商品ブランディングの伸び方も、デザイン投資のROIも、すべて変わってくる。シンプルな話だけど、現場では本当によく見落とされちゃう部分なんですよね。
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