「商品ブランディング」がうまくいかない時、何が起きているのか
「パッケージを刷新したのに、棚での動きが変わらない」。
「広告ビジュアルは前より垢抜けたはずなのに、問い合わせが伸びない」。
「いい商品だと自分でも思う。でも、伝わってる手応えがないんだよなー」。
新商品をリリースしたあと、あるいはテコ入れのために発注をかけたあと、こういう声を経営者からよく聞きます。担当デザイナーは誠実だった。提案も悪くなかった。それでも、数字が動かない。
僕がこれまで現場で見てきた限り、商品ブランディングが伸び悩む時の原因は、デザインの中じゃなくて、もう一段手前にあります。「この商品は、誰にとって、どんな意味を持つのか」が、言葉として整っていない。
そう書くと当たり前に聞こえるかもしれない。ただ、ここを本当に整えきれている商品って、実は驚くほど少ないんですよね。今回はその「言葉の未設計」が、どう商品ブランディングの停滞を生むのかを、3つの理由に分けて整理してみます。
伸び悩む理由①:「誰の、どんな悩みに刺さるか」が一文で言えない
最初の理由は、ターゲットと提供価値が、社内の誰に聞いても同じ一文で返ってこないこと。
商品企画の打ち合わせを覗くと、こういう会話がよくあります。「30代から40代の働く女性向け」「忙しい毎日に寄り添う」「上質さも大事にしたい」。それぞれの言葉は間違ってない。ただ、これだけ揃っても、商品の輪郭は浮かんでこないんですよね。
I'm Hoppingでヒアリングをかけると、同じ商品について、経営者と企画担当者と営業担当者で「誰のための商品か」の説明が微妙に違うことが、本当によくある。経営者は「30代の働く女性」と言い、企画は「子育てが落ち着いた40代」と言い、営業は「ギフト需要が中心」と言う。
この状態でパッケージや広告に進むと、何が起きるか。デザイナーは複数の解釈を全部拾おうとして、結果として、誰にも深く刺さらない無難なビジュアルが出てきちゃう。これは制作スキルの問題じゃなくて、上流の言葉が決まりきっていない構造の問題です。
「誰の、どんな悩みに、どう応える商品か」。これを一文で、社内の誰に聞いても同じ言葉で返ってくる状態にする。商品ブランディングは、ここからしか本当の意味では始まらない。
伸び悩む理由②:「他社じゃなくてうちを選ぶ理由」が形容詞で終わっている
二つ目は、競合との違いを語る言葉が、形容詞の積み重ねで終わっていること。
「品質にこだわった」「丁寧につくった」「素材を厳選した」。商品ページや営業資料でよく見るフレーズですよね。これらの形容詞は、書いた本人にとっては実感のこもった言葉のはず。ただ、買い手側からすると、ほぼ全ての商品が同じことを言っているように見えちゃう。
経験上、選ばれている商品の説明文には、形容詞よりも動詞と具体名詞が多いんですよね。「素材を厳選した」じゃなくて「同じ農家さんと10年以上付き合って、欠品の年でも他に乗り換えなかった」。「丁寧につくった」じゃなくて「一日に20個までしか焼かない」。
形容詞は便利だけど、便利すぎて差別化の輪郭を溶かしちゃう。逆に、行動や数字で語られた事実は、その商品だけのストーリーになって残ります。
ここで一つ、自社の商品の説明文を眺めてみてほしい。形容詞を全部取り除いた時、商品の固有性を語る文章は残るか。残らないなら、それは「言葉の差別化」がまだ未完成の状態。パッケージや広告でいくら頑張っても、買い手にとっての違いは見えてきにくいです。
伸び悩む理由③:「商品とブランドの関係」が社内で言語化されていない
三つ目は、ちょっと抽象度の高い話。商品単体じゃなくて、商品とブランドの関係が、社内で整理されていないケースです。
商品をいくつもラインナップしている会社で、よく起きます。「商品Aはこの方向で売りたい」「商品Bはもう少しカジュアルに」「商品Cはギフト向けに別ブランド化したい」。それぞれの判断は妥当だったりするんだけど、ブランド全体としての一貫性が、いつの間にか崩れていく。
理由は単純で、「うちのブランドは何を約束する会社か」が一文で固まっていないから。約束の中心がないと、商品ごとの方向性は、その都度のトレンドや担当者の好みで揺れちゃうんですよね。
たとえば、化粧品ブランドansâgeの季刊ジャーナル「ansâge Journal」のお仕事では、商品レビュー・特集記事・キャンペーン告知を一冊にまとめる時に、いちばん時間をかけたのは「この雑誌が読者に何を約束するか」を言葉で整える工程でした。「商品カタログ以上、女性誌未満」というポジションが言葉で決まったから、紙面の色も、文字組みも、企画の選び方も、すべてが同じ方向を向いた。詳しくはWorksページに掲載しています。
商品とブランドの関係を言葉で先に決める。ここを飛ばすと、商品が増えるほどブランドの輪郭がぼやけていく現象が起きちゃう。
パッケージ刷新だけでは、なぜ売上が変わらないのか
ここで、よく相談を受けるテーマに触れておきたい。「パッケージを刷新したのに売上が変わらない」問題。
中身が同じなのに、見た目だけ変えて急に売れるなんてことは、経験上ほぼないんですよね。なのに、テコ入れの最初の発注がパッケージ刷新だけで終わるケースが、本当によくある。
何が起きているかというと、パッケージは「言葉の出力結果」のひとつにすぎないんですよね。元の言葉が整っていないままパッケージだけ刷新しても、出力されるビジュアルは、結局のところ前と同じ「何を売っているか曖昧な商品」のままです。色とフォントが変わっただけで、伝わる内容は変わってない。
たとえば、ある食品メーカーが「健康志向に寄せる」と判断してパッケージを白系に統一したとします。でも、社内で「うちの商品の健康とは何か」が言語化されていないと、棚に並べた時に、競合の同じ白系商品との違いが消えちゃう。健康志向というワードが業界全体に共有されすぎていて、形容詞だけでは差別化されないから。
パッケージ刷新を否定したいわけじゃない。順番の話。言葉が整ったあとのパッケージ刷新は、本当に強い武器になります。逆に、言葉なしのパッケージ刷新は、コストをかけた割に売上が動かなくて、後から「もう一度やり直し」になる確率が高い。これが基本。
言葉の解像度が、商品開発の意思決定スピードを変える
ここまで「言葉が整っていないと、ビジュアルが機能しない」という話をしてきたけど、言葉を整えるメリットはそれだけじゃないです。
商品開発の意思決定スピードが、まるごと変わる。
新しいフレーバーを足すかどうか。価格帯を上げるかどうか。販路をどこまで広げるか。商品企画の現場では、毎週のように小さな判断が積み重なっていきますよね。「この商品は、誰にとって、どんな意味を持つのか」が一文で固まっている会社では、これらの判断にかかる時間が圧倒的に短い。
なぜかというと、判断の物差しが共有されているから。「うちの商品は、子育てを終えた女性の朝の30分のための紅茶」と言葉で決まっていれば、「夜向けのリラックスフレーバーを足すか」の議論は、文脈に合わないという理由で即座に却下できる。逆に「20代向けの華やかなフレーバー」の追加も、ブランドの軸とズレるから保留にできる。
言葉が曖昧な会社では、毎回ゼロから議論が始まっちゃうんですよね。「いや、夜向けもアリかも」「20代も取りに行く?」と、判断の根拠が毎回その場の感覚に流れる。これは経営の意思決定コストとして、地味だけど大きい。
商品ブランディングの言葉を整えることは、対外的な訴求のためだけじゃなく、社内の判断速度のためでもあります。
失敗事例:「いい商品なのに伝わらない」の構造
ここで、I'm Hoppingがリカバリー案件として相談を受ける時によく出会う構造を、一つ共有させてください。
ある会社が、長年つくり続けてきた商品をテコ入れしたいと考えました。中身には絶対の自信がある。ただ、ここ数年、競合の新興ブランドに棚を奪われている。社内会議で「パッケージが古いんじゃないか」「広告が足りないんじゃないか」と議論になり、まず大手の制作会社にパッケージ刷新を依頼した。
完成したパッケージは確かに今っぽくて、写真もきれいに仕上がっています。経営者も社員も「いい感じ」と評価した。ところが、店頭に並べてから3ヶ月、数字はほとんど動かなかった。
僕らがヒアリングに入って分かったのは、商品自体は本当によくできているということ。原料の出どころも明確で、製法にも独自性がある。それなのに、商品の説明文を社内の5人に聞くと、5通りの答えが返ってきました。「健康志向の人向け」「自然派のママ向け」「ギフトの定番」「料理好きの調味料」「保存食としての安心感」。
全部間違ってないんですよね。ただ、ターゲットが5方向に広がった状態でパッケージだけ刷新しても、棚で立つ言葉は生まれない。「いい商品なのに伝わらない」と感じる時、実は伝える側の言葉が、まだ束ねられていないんです。(中身の問題じゃなかった、というケースが本当に多い🙃)
このパターンに陥ると、リカバリーには新規開発と同じくらいの時間と覚悟がかかります。一度パッケージを刷新したあとで「言葉から考え直す」のは、心理的にも予算的にもかなり重い決断になっちゃうから。
成功する商品ブランディングは、いつも「言葉」から逆算されている
逆のパターンも見てきました。商品ブランディングがうまく回っている会社には、いくつか共通点があります。
商品ブランディングがうまく回っている会社の共通点
- 商品の説明を社内の誰に聞いても、ほぼ同じ一文が返ってくること。
- その一文の中に、形容詞より動詞と具体名詞が多いこと。
- ブランド全体としての約束が、商品単体の文脈とは別に、一つ言語化されていること。
たとえばWomen's PILATES様のお仕事では、ロゴ・コーポレートパンフレット・養成講座LP・スタジオパンフレットまで、複数の制作物を同時に進めました。それぞれが別の用途で別の場所に届くにもかかわらず、すべてが同じ印象で受け取られるのは、最初に「自分らしく、美しく、生きるために」というブランドの約束が言葉として固まっていたから。この言葉があるから、パンフレットの色も、LPのファーストビューの構成も、すべての判断がブレずに進められました。事例はWorksページに掲載しています。
成功している商品ブランディングは、いつも言葉から逆算されています。逆算の起点があるから、パッケージも広告もSNSもPRも、それぞれが同じ方向を向く。これがブランドの一貫性の正体です。見た目で揃えているんじゃなくて、言葉で揃えている。シンプルな話。
I'm Hoppingが商品ブランディング案件で最初にやること
ここまで読んでくださった方には、I'm Hoppingが商品ブランディング案件でも、最初に取り組むのが言葉の工程だということが、ちょっと伝わっているかもしれません。
具体的には、デザインに入る前に「この商品は、誰にとって、どんな意味を持つのか」を一文で定義する時間を必ず確保します。経営者の方、商品企画の方、営業の方、可能なら開発の方にも入ってもらって、複数の視点を一文にまとめる対話を重ねていきます。
この工程に、案件にもよりますが、数週間から数ヶ月かけることもあります。早く制作に入りたい気持ちは分かるんだけど、ここを飛ばすと結局あとで戻ってくることになるから、丁寧にやるんですよね。
一文が固まったあとで、初めてパッケージ、ネーミング、コピー、Webサイト、販促物といったビジュアル要素に進みます。順序を逆にしないし、途中で揺れた時には必ず一文に立ち戻る。これがI'm Hoppingの商品ブランディングの基本ルールです。
「ビジュアルだけを早くつくりたい」という案件には、もっと制作スピードの早い会社がたくさん世の中にある。そっちのほうが向いている場面もあると思う。一方で、商品の言葉から一緒に整えたい方には、僕らのような会社が役に立てます。役割の棲み分け、というだけの話。
発注する前に、自社の商品を一文で言えるか試してみる
最後に、もう一度だけ立ち止まる時間をお願いします。
パッケージ刷新やネーミング刷新の発注をかける前に、自社の商品について、次の三つの問いに答えてみてほしい。
発注前に答えてみたい3つの問い
- 「この商品は、誰の、どんな悩みに、どう応える商品か」を、一文で言えるか。
- 「他社じゃなくて、うちの商品が選ばれる理由」を、形容詞じゃなく動詞と具体名詞で言えるか。
- 「うちのブランド全体が約束していること」と、「この商品単体が約束していること」の関係を、一段落で説明できるか。
詰まる場所があれば、そこが上流の未整備な部分。その未整備な部分を抱えたまま発注をかけると、どんなに優秀なデザイン会社に頼んでも、出来上がるビジュアルは前と似たような曖昧さを抱えたままになっちゃう。
逆に、この三つに自分の言葉で答えられるなら、発注は驚くほどスムーズに進みます。「うちの商品はこういう存在だから、こういう表現が欲しい」と語れる経営者には、デザイン会社の側も全力で応えやすい。
「商品ブランディングをどう設計するか」という問いは、本当はこう言い換えられるのかもしれない。
「自社の商品の意味を、誰と一緒に言葉にしていくか」。
その問いに変えた瞬間から、発注の景色は変わっていきそうです。
次回予告
この記事は、「言語設計から始めるブランディング」シリーズの第2回です。第1回の「戦略的デザイン会社を探す前に──選ぶ基準より大切な「言語の上流工程」」から続けて読んでいただくと、上流の言葉が会社単位と商品単位の両方で機能する流れが見えてくるかもしれません。
次回(第3回)は「デザインの役割とは何か──「見た目を整える」を超えて、経営の意思決定ツールへ」をお届けする予定です。